山の湯 (滋賀県 彦根の銭湯)

滋賀県、JR彦根駅から徒歩約20分。明治12年創業の「山の湯」

彦根に残った唯一の銭湯だ。

千鳥破風の外観、そして暖簾をくぐった瞬間から感じる、古い時代様式をありのまま残した内観。
銭湯の魅力の一つとして「レトロであること」に重きを置くのであれば、山の湯はまさに一見に値する。

裏手には彦根上の土嚢であった小高い丘のようなものがあり、「山の湯」の屋号は、この丘(山)に由来しているらしい。

鍵の大半が失われた下足箱に靴を入れて脱衣所内に入ると、人なつっこい女将さんが出迎えてくれる。
番台は背の丈が低く、男女脱衣所がお互いに見えてしまいそうだが、営業中の女性側には、簡単なパテーションが設置されている。

脱衣所は立派な格天井。男女を仕切る脱衣所の壁は一面の鏡張り。
時代を吸い込んだような体重計とマッサージ機はもちろん、丸い脱衣籠も現役だ。
女性脱衣所にある子供ベッドも頑丈そうな木製で、筆文字で大きく番号が描かれている。
トイレは今ではあまり見かけないくみ取り式のもので、目に入るものすべて、時が止まっている。

そして、ひときわ目を惹くのは、脱衣所と浴室の間に設けられた石造りの中庭だ。
ほんのりと光る灯籠がなんとも言えぬ風情を漂わせており、脱衣所のガラス床から覗き込むと、池には大きな鯉までが悠々佇んでいる。

浴室内の設備はシンプルでありながらも、他にはない特徴を備えている。

深浴槽・浅浴槽(ジェット兼ねる)は、ジェットが優しいことを除けば、どこの銭湯でもよくあるものだが、
浴室の真ん中にあるクリのような形をした子供風呂。そして成分不明の薬風呂がポイントだ。

子供風呂は、言われなければ奇妙な形をした湯鉢のように思えるが、よく見ると浅く、子供を座らせるための小さなタイル椅子も備えられてあり、それが小さな子供用の湯船であることがわかる。
誰もが銭湯を利用し、子供連れも多かった時代の遺産的な湯船だ。

濃い茶色に濁った薬風呂は、秘伝のタレのように成分は秘密のようだが、肌触りがなめらかで気持ちがいい。
薬風呂の上部に設置された水槽には、以前は鯉が泳いでいたようだが、入浴した時には残念ながらその姿は確認できなかった。

湯上がりの脱衣所は、テレビが消されていて、やけに静かだった。
時折、常連さんや、銭湯ランナーらしきお客さんがやって来て、女将さんと、ひとこと、ふたこと、言葉を交わしてゆく。
しんとした空間で古い景色に囲まれていると、ふと、まるで自分が違う時代に生きているかのような、優しい錯覚がやってきた。

山の湯は、穏やかに時間が流れる、すばらしいレトロ銭湯だ。
なかなか彦根までは足が伸ばせないが、機会があればぜひ再訪してみたい。

ポイント

・すばらしい癒やし系レトロ銭湯
・成分が謎の薬湯と、かわいい子供風呂
・鯉が泳ぐ、美しい中庭

設備

深浴槽
浅浴槽(ジェット兼ねる)
子供用湯船
薬風呂

ギャラリー

地図

彦根市中央町7-33

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